向いてない子育て備忘録

どう考えても向いてない

とりあえず、マクドナルドに行こう

時は四月四日。土曜日の婦人科はこの日も大混雑で、自分が落ち着いて腰かけていられる場所を探すのに少しだけ苦労した。いつも通り、予約の一〇分前に到着して自分の順番を待っていた。

近頃、心なしかお手洗いが近くなったような気がする。本当に近くなっているのか、それともただの気のせいだかわからないが、夜中に何度も目が覚める。また夜と言えば、眠ろうとすると足先が妙に熱く感じて、よく寝付けない時もある。もとから寝付きがいい方ではなかったが、頻度が増えると困ってしまう。昨日分かったのだが、足先が熱くて眠れないとき、着圧ソックスを履くと状況が改善するようだ。これはわたしだけなのだろうか。それともある程度万人向けの対策になるだろうか。

お手洗いを済ませて診察室の前に進む。前回や、前々回に比べると、だいぶと緊張感がなくなってきた。前回も申し上げた通り、やるなら一思いにやってほしいのだ。今のところ決定打なくだらだらと時間が過ぎているが、問題がない状態で進んでいるのではない。よって、いつなんどきダメになるかもわからないのだ。ダメになるなら早い方がいい。傷も浅くて済むだろうし、私が煙草を我慢する期間も短くなる。本日も、無事に心拍確認とはいかないのだろうな、と、ぼんやり考えていた。

内診台に上がって、再びぐりぐり。それでもやっぱり、胎嚢はよく見えなかった。相変わらず、これであろうという疑わしい陰はあるものの、これに間違いない!とは自分でも思えない。いるのか、いないのか。今日もはっきりしないままである。

そんなわけで、経腟エコーで胎嚢をはっきり確認できなかった私に、おじいちゃん先生はまた血液検査をしてみましょうと言い渡すのであった。

混んでいる婦人科の待合室で、小一時間ほど待った。病院の待合室というのは、人が密集していて、換気がされない。中でおしゃべりに興じている人はいないけれど、受付の人や看護婦さんが患者さんを呼ぶ声は頻繁に聞こえる。現在大騒ぎになっているコロナウイルスに対して、あまりいい状態ではないだろう。それでもみんな、ここに通う。不思議な気分だった。

 

そういえば、コロナウイルスの流行期において、不妊治療のスケジュールについての要請があったと聞く。体外受精などで妊娠時期をコントロールできる患者さんたちについて、流行が収束するか、妊婦に問題なく使える薬品が開発されるまで、妊娠を自粛してほしいとの内容だ。

その指示自体には、概ね賛成である。妊娠を理由にして有効な対症療法を行うことができずに本人が苦しむことはできれば避けるべきであると考えた。また、妊娠初期に感染して障害が残る可能性はゼロではないし、障害が残るかどうかを確認する手立てはない。未知の感染症を前にして、警戒を促すのは至極真っ当であるように思う。

しかし、不妊治療には年齢や、卵子の老化など、時間を無駄にできない側面があるということも、私は知っている。私も不妊について、一年半程度ではあるが悩んできたのだ。自分の卵巣年齢が、実年齢よりもはるかに歳をとっていたらどうするか。そんなことを考えたりもした。不妊治療は早ければ早いほどいい。それは、どんな資料を見ても、誰の情報を聞いても、間違いようがない事実であるように感じたのだ。

このコロナウイルス騒動は、いったいいつになったら収束するのだろう。インフルエンザのように、春の訪れとともに収まっていくものなのだろうか。それとも、秋、冬まで広がり続けるのだろうか。私にはわからない。いつ収束するかもわからない伝染病を原因として、不妊治療を遅らせてくれと要請されるというのは、なんともいえず複雑な気持ちだ。理性では理解できるし、納得できるが、感情となると、そうはいかない人もたくさんいるだろう、と考える。私は、もし今回の妊娠がダメになった時、事態の収束を大人しく待てるだろうか。正直なところ、甚だ疑問である。

 

そんなこんなで、ホルモン値の結果が出たらしい。私は自分のホルモン値を確認するより前に、再度内診台に上がることになった。おや、と思う。どうやら、いつも診てくれているおじいちゃん先生ではないようだ。おじいちゃん先生がとうとうヘルプを出したということだろうか。今日はちょっと、念入りに探しますよ、と気合が入った声掛けを受け、よろしくお願いします、と、返事をした。

確かに念入りだった。グリグリ、グリ、グリリ、と、膣内全域を隈なく駆け巡るようなエコーだった。声を上げる程痛くはなかったが、鈍痛はあったし、そんなにグリグリしても大丈夫なものなのか、と、感心してしまった。妊娠しているかもしれないと思うと、日常の所作もそーっとしてしまいがちな私、目から鱗

先ほどとは違う診察室に呼ばれて対面してみれば、いつものおじいちゃん先生よりももっとおじいちゃん先生だった。声に張りがあって、物言いもはっきりした感じだったので、もっとお若いのかと思っていたら、確実に腰が曲がっているおじいちゃんだった。

子宮の中に胎嚢があるのは間違いない。見えづらいだけ。ホルモン値もかなりいい状態なので、これで来週胎嚢が大きくなっていれば、問題なく成長するでしょう、とのことだ。またこれだ、と私は若干呆れたが、それでも、もっとおじいちゃん先生は子宮外妊娠の可能性はほぼ認められない、と、今までのおじいちゃん先生よりもはっきり言った。腺筋症っぽいから、見えずらいだけでしょうと笑ったもっとおじいちゃん先生に、ほんとですかね、とちょっとうんざりした感じで返事をしてしまった。

腺筋症ってなんだろう、と、会計までの間にすかさず検索。子宮内膜症のちょっと変わったやつだった。流産率や早産率が、子宮内膜症よりも大分高いらしい。あー、また自分の身体の良くないところを知ってしまった、と、頭痛がする思いだった。

 

そんなわけで、子宮外妊娠の危険性がほぼ消えたことで、3日おきの通院から解放されたらしい。次は一週間後、と言われたとき、正直ホッとした。しかし一週間後で土曜日に来るのは嫌だ。やはり土曜日は混んでいる。金曜日に予約を入れて、晴れやかでもない足取りで病院を出る。

そうだ、マックに行こう、煙草はダメでも、マックならいいだろう。

毎日食べているわけでもないし、食べたいと思った時に食べたいものを食べないなんて、わたしには考えられないことだ。

旦那にマックへ行こう、と連絡だけ入れて、歩き出す。

 

次は四月一〇日、金曜日。